特集ロゴ

スウェーデンのエコロジカル社会革命

レーナ・リンダル女史


 スウェーデンは人口密度の低い国で、日本の国土の1.2倍の国土に880万人の人口しかいない国である。環境先進国として、実はドイツなどのモデルになっているのは北欧の国々であることが話題となり、注目を集めるようになってきたが、その背景などは日本ではあまり知られていない。
今回はスウェーデン出身のレーナ・リンダル女史に、スウェーデンのエコロジカルな社会についてのお話しを聞いてみた。

「持続可能な社会」のモデル国としてのスウェーデンの決意

 スウェーデンは、福祉国家としてよく知られているが、環境国家としての取り組みもかなり早い時期から始められていた。1980年には原子力発電所の存在を問う国民投票を実施し、代替エネルギーの問題も未解決のままに、廃止する方針を決定した国としてもよく話題にのぼる。実は当時、国の電力の50%を占めていた原発をストップしていくという選択は、スウェーデンにとってもたやすいものではなく、かなり勇気のいる決断だったことはいうまでもない。けれども、この流れを受けて、1995年からEUに加盟したスウェーデンのヨーラン・パーション首相は、積極的に「持続可能な社会」のモデル国を作ることで国際貢献をしていくと1996年には表明し、有言実行型の政策を行ってきた。

環境問題に国境がないというショックが環境活動のきっかけ

 スウェーデン生まれの私のプロフィールから簡単にご紹介すると、初めて日本にやってきたのは1982年。その後、約2年を京都に過ごし、日本語を学んだ。当時はそれほど環境問題に関心があったわけではなく、日本の文化的かつ伝統的なところに強く惹かれていた。そのうちに、独特の文化を培った日本人の考え方や歴史的な背景に興味を抱き、習慣やライフスタイルについて調べるようになっていった。
 その後に、いったんスウェーデンに戻ったときには、スウェーデンという国を客観的にみることができるようになっていた。その頃のスウェーデンは、かなり環境保護運動が活発で、私自身も環境への意識が高まってきていた。おりしも、チェルノブイリの原発事故もかさなって、環境問題に国境がないことにひどくショックを受けたのもこの時期だった。放射能汚染による目に見えない被害はおそろしいもので、対策のとりようもないことだった。改めて、人間の無力さを感じた。
 しばらくして、日本にもう一度行きたいという思いがつのり、「環境」というキーワードで日本をみてみたいと思うようになった。
 当時(1989年頃)の日本は経済大国への道をまっしぐらの状況で、世界の資源の消費にも大きな影響を与えるようになってきたところだった。「地球の友」というNGOの紹介で、発足したばかりの地球環境国際議員連盟「グローブ・インターナショナル」の日本事務局に就職が決まったのだが、日本で環境問題に取り組むことの難しさを痛感した。93年から事務局長、総裁秘書を務めて、結局4年半に及ぶ期間を勤めることになった。そのなかでは少しずつだが、日本の政治家の環境意識も変わってきたと実感できるようになってきた。日本の政策を変えていくことは生半可なことではないが、海外の情報をもってくることが有効だと感じたのも、この頃だった。そこで、1995年には、スウェーデン社会研究所研究員となり、スウェーデンの環境保護活動や政策を日本で紹介しながら、外国企業向けに日本の環境政策の調査、報告活動を始めるようになった。1997年1月からは、「スウェーデン環境ニュース」をFAXで発行し、現在スウェーデンの情報を定期的に届ける仕事もしている。

「人の健康を守る」ことが、第一優先のスウェーデン

 「日本とスウェーデンの違いは?」という質問をよく受けるが、決定的に違うのは、スウェーデンにはまず予防の原則があること。スウェーデンでは、福祉政策も環境政策も予防をするのが原則となっている。人間が病気にならないために予防していくのと同様に、環境問題も地球の病気の予防であり、予防をすることのほうが結果的にはコストも安くすみ、みんなが幸せな社会を築くことができるからだ。
 日本人は都合の悪いことに触れようとせず、情報をかくす傾向が強いが、スウェーデンでは、まったく反対の立場をとる。不透明な部分をそのままにぜずに、全部いったん出してしまって問題点を究明する。ダイオキシンの問題は、スウェーデンでもかつてあったが、すでに1980年代のこと。日本よりもかなり早かったため、今のスウェーデンではあまり議論されていない。スウェーデンで一番注目されたのは、基幹産業の一つであるパルプと製紙業界だった。パルプや紙は塩素を使って漂泊する過程において排出する水にダイオキシンが含まれていたことが問題となった。製品中からも少量のダイオキシンが検出され、グリーンピースや自然保護団体などの市民団体が一大キャンペーンをはって、消費者が無漂泊の製品を求めるように誘導した。これによって製紙業界のあり方を変えることに成功した。スウェーデンは、1980年からパルプと製紙業界の有害塩素化合物(ダイオキシンなどを含む)の排出を90%減らしている。
ごみ消却場からのダイオキシン量も減らすことができた。(環境保護庁)ごみ焼却場については、ダイオキシンの問題がわかった時にその対策として、まず新しい焼却場の建設を一時的にストップし、その原因を調査した。今のスウェーデンでは、焼却時の温度の安定化などの技術で、ダイオキシンの発生をおさえることができるということがわかったので、焼却の仕方に工夫をしている。
しかし、できるだけ焼却しない方向にするために、もうひとつ力をいれているのはごみ発生源での分別とリサイクルだ。焼却炉に入れる廃棄物の種類をある程度コントロールしたことも功を奏した。また、焼却炉はただのごみ処理としての施設ではなく、エネルギー源としても考えられている。最近は、エネルギー関連会社が廃棄物処理業に取り組んでいることも珍しくない。
 ここ数年に注目されたのは、塩化ビニールの問題だ。塩化ビニールに柔らかさや弾力を出すために加えられている「可塑剤」の一種、フタル酸エステル類。これは、日本でも環境ホルモンの一つに指定されている物資のひとつで、食品などに接する塩化ビニールのラップからは、微量だが漏れていることもわかった。そのため、1990年からスウェーデンで生産されている容器包装類(特に食品用のもの)には、塩化ビニールを使用しないことになっている。
 子供がなめたりする可能性のある塩化ビニール製のおもちゃも大きな問題となっている。マクドナルドが、子供のお客さんにあげているおもちゃも塩化ビニール製ということで特にグリーンピースに指摘された。マクドナルド側は、この指摘を騒ぎ過ぎだと言っているが、デンマークの環境大臣は、小さい子供のおもちゃでのフタル酸エステル類の使用を禁止する法律を準備していると発表している。(日刊紙DN 98年12月30日号)
 日本でも、ダイオキシン問題がここ最近の話題にのぼっているが、その根本的な解決については、残念だが議論がなされていない。環境ホルモン問題の火付け役にもなった『奪われし未来』のダイアン・ダマノスキ女史も言っていたが、化学物質汚染は一国の問題ではなく、世界全体の問題であり、すでに影響が出てきている。リスクを抱えながら危ない橋を渡り続けるのか、今すぐ方向を転換するのか、その選択がポイントである。

環境教育団体としてのナチュラルステップの成功例

 スウェーデンでは、企業と環境教育団体がユニークな活動をしていることでも知られている。ナチュラルステップを設立したのは、世界的ながんの研究者カール=ヘンリク・ロベール博士。現代社会の健康診断をするようにロベール博士は、1988年に50人以上の各分野の自然科学者を集めて21回に及ぶ会合を重ねた結果、みんなが合意できる「診断書」を作り上げることに成功した。環境問題は、そのほとんどが人間が引き起こしたものであるから、当然、問題の根源をたどっていくことで治療法も見えてくる。この「診断して治療法を見つける。治療しながら防止する」といったプロセスをナチュラルステップは、環境教育のカリキュラムに置き換えて実践していった。
 すでに、エレクトロラックス(家電メーカー)や、スカンディクホテル(ホテルチェーン)、イケア(家具メーカー)マクドナルドなどの多くの大企業のリーダーたちが、ナチュラルステップの活動に賛同し、教育システムを導入して成功している。  ナチュラルステップの基本原則は、シンプルな4つの条件で、これらは、「持続可能な社会」を構築するためのビジョンでもある。

すなわちそれは、

  1. 生態圏の中で、地殻から掘り出した物質の濃度を増やし続けてはならない
  2. 生態圏の中で、人口的に製造した物質の濃度を増やし続けてはならない  
  3. 自然の生産性や多様性の物理的基盤を破壊してはならない
  4. 資源の利用は公平で効率的でなければならない
ということ。このナチュラルステップが開発したコンパスを正しく使っていくならば、これからの将来に企業がぶつかる可能性のある問題を自然と避けて通ることができるだろう。
 このナチュラルステップの考え方と、スウェーデンにおける人と企業の環境教育を詳しく書いた本として、参考までに「ナチュラルステップ」(新評論発行)もご紹介しておきたい。

循環型社会をリードする企業たち

 スウェーデンの循環型社会をリードしようとする企業のひとつにソンガ・セービホテルがある。ストックホルムまで続く湖に面するロケーションの良さからも、ホテルとしてだけでなく、企業内セミナーや宿泊施設などに適している施設である。
 ソンガ・セービホテルの環境対策の積極的な取り組みは、1993年に始まり、すべての職員が参加する環境教育がまず行われた。その教育は、環境対策の必要性と、取り組みのためのシンプルな4つの原則を理解してもらう(ナチュラルステップ方式)というもの。具体的には、施設では再生可能なエネルギー以外のエネルギーを1996年から使用していない。暖房の65%はメラレン湖の冬と夏の温度差を利用するヒートポンプによるもので、湖の底にエタノールが入った7キロメートルにわたるゴムのチューブを使っている。比較的、暖かい湖の底から熱を誘導するという賢い方法だ。電気についても、自然保護協会のエコマークがついている水力発電所の電力を利用している。ホテル内のプールやサウナなどの施設では、太陽熱を使っている。
 また、ごみは22種類に分別したうえで、そのほとんどが再利用されている。ソンガ・セービは、品質管理・保証規格のISO9002とISO14001の両方を取得し、97年には国際ホテル協会のコンペで世界各地のホテルと競争し、1位に輝いた実績をもつ。さらに、環境保護の方針を打ち出した1993年から95年の間に売り上げは30%も増えたと言う。環境型の経営は、立派に功を奏したのである。
 大手の住宅建設会社のイーエム・ビグナドスも、こうした環境型の経営をめざし、業界でリーダーシップを発揮している企業である。2500人の社員を対象にしたナチュラルステップ方式の環境教育を1994年から行い、すでに95年にはスウェーデンの建設業界での環境賞を受賞している。具体的に進めていることは、商品の内容を記録し、利用者に提供するということ。例えば、材料に有害物質が含まれているものはもとより、危険性のあるものも明記する。また、材料の由来地域や容器包装のありかた、長もちするためのメンテナンス方法など、リサイクルの可能性などに関する情報も提供している。もちろん価格もやや高価だが、まさに質の高さで勝負しているのである。

業界の早期の自主努力にまかせた規制の導入

 こうした背景には、スウェーデン政府の動きもあった。1994年に政府は企業に対して、「製造物責任法」を導入し、生産者は自社製品の廃棄後の処理までの責任を負うことが義務づけられたのである。スウェーデンの場合、エコサイクル委員会が、こうした概念を具体的に業界に啓発する役割を担っている。例えば、容器包装の分別回収や再商品化については、業界が責任を持つというシステムを導入し、市民団体の自然保護協会は20万人に及ぶメンバーを集めて、エコマークを作って消費者を指導している。全国に288ある地方自治体がアジェンダ21を作成し、市民はグリーン購入(環境負荷の低い商品を選んで買うこと)などを積極的に行っている。建設業界においても、「業界の自主努力にまかせたいが、だめだったら規制を導入する」という態度をとった。そこで建設業界は、前向きに取り組み始め、イーエム・ビグナドスなどの大手住宅建設会社が循環型社会への貢献度を競っている。

スウェーデンのエコビジネス

 スウェーデンでは、こうしたプロセスの結果として、他にもいろんな現象が起こってきた。その一部を紹介すると、

  1. 自転車速達ビジネス便(バイク便の変わりに即配達するシステム)
  2. 洗剤メーカーのほとんどは、環境保護団体のエコマーク基準に商品を合わせている
  3. 容器包装回収ステーションがすべての自治体に設置された
  4. マクドナルドでエコ牛乳(放牧された牛のお乳から作ったミルク)を飲むことができる
  5. 家具屋のイケアはボルボの生産プロセスから残った材料で作ったランプを販売
など。

 特にマクドナルドのエコ牛乳は、「クラーブ」(KRAV)の基準にあった牛乳と牛肉を生産している農家を積極的にサポートしている。クラーブの基準のそって育てられる牛は、ほとんど(95%)化学肥料と農薬を使わない有機飼料を食べている。マクドナルドの場合、もともとアメリカ文化だったハンバーガーが、スウェーデンの有機農やリサイクルの考え方を吸収しながら、新しいハイブリッド文化になりつつあるユニークな例である。マクドナルドは、省エネルギーやリサイクル製品の導入、水の節約、レストランの建設に関しても、持続可能な社会に似合った企業になるための努力を続けている。

 世界的にも、失業率が高い今日、スウェーデンでも環境産業には、大きな期待がよせられている。国会において環境党は、環境への負荷の少ないバイオガス、太陽光発電、風力に対する大規模な研究開発を提案し、原子力に依存しない生活を提言している。もちろん、石油の消費が減少すれば、経済バランスも変わってくるために、環境を改善しながら新しい仕事を創造していく必要性はある。
 さらにスウェーデンは、自動車道路などのインフラに力をそそいできたが、環境党は所得税をさげ、化石燃料と再生可能でない資源に対する税金の増額を提案している。これにより効率の良いエネルギーと、環境技術が生まれてくるだろうと主張する。
 環境党はこうした税制改革によって多くの雇用も見込んでいるが、リサイクルとリユースは、より経済性を持つようになり、地方のコミュニティも活性化することになるだろう。
 纓テと健康に関する政策は、人間と環境に対するホリスティックな見方によるものである。
 環境党は、まだマイノリティ(約5%)だが、効率の良い鉄道交通やテレコミュニケーション、そして21世紀型の新しい都市交通システムに対する投資も提案している。

ビジョンを共有することが鍵

 日本の政治家や企業は、まだ今は「ヨーロッパで何か熱心にやってるな」ぐらいにしか思っていないかもしれない。しかし環境問題は今後の数年のうちに、政治の最重要課題になってくることはまちがいない。
 日本はスウェーデンから何を学べるか、また何を学ぶべきかをぜひ知っていただきたい。スウェーデンの環境政策の決定過程や省庁の組織などにもその多くの鍵が潜んでいるような気がする。
 くり返すが、日本の政府との違いは、スウェーデン政府は市民の声をすぐさま反映して企業に対して強い態度を示すということである。どの業界においても例外はなく、「循環型システム」にしないと、すぐに厳しい規制が設けられるために、企業は必死に取り組むという図式がある。
 もちろん、本格的な環境対策を取らないと企業がマーケットに生き残ってはいけないという側面もあるだろう。いくら、商品が安くて便利でも、企業としてのあり方が消費者に支持されないと、商品も売れなくなってしまうということもあるからだ。
 しかし、決定的な違いは、スウェーデンでは各界が「自然循環型社会」の概念を共有しているということ。日本では、政府も企業も共有するビジョンがないから、いっこうに解決の方向に進まない。まずは「持続可能な社会」とは何かを考え、理解するのが第1のステップだ。共有できるビジョンを持つことで、次のステップも見えてくるはずなのだから・・・。

(文責:編集部・薗田)
(エコロジーシンフォニー99年3月号)

レーナ・リンダル(Lena Lindahl)

スウェーデン生まれ。1982年初来日。84年まで京都に滞在。
1990年からアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、日本の国会議員で構成される地球環境国際議員連盟「グローブ・インターナショナル」の日本事務局に就職、93年から事務局長、総裁秘書を務める。
1995年スウェーデン社会研究所研究員となる。
現在、執筆、講演活動を通じてスウェーデンの環境保護活動や政策を日本で紹介しながら、外国企業向けに日本の環境政策の調査、報告活動に従事。
1997年1月から「スウェーデン環境ニュース」を発行。
申し込み問い合わせ先は、03-3422-7019(FAX)
または、E-mailで VZQ11450@nifty.ne.jp まで。
年11回FAXで発行、年間購読料 5000円。

趣味は美術、デザイン、水泳、ハイキング、読書など。



バックナンバーへ


もどる トップページへ すすむ