![]() 「環境ホルモン(2) PCB・ビスフェノールA」環境ホルモンとして疑われている物質は多数あるが、新聞やニュースで化学物質名を目にしてもそれがどのような物質で、どんな用途に使われているのかを理解している人は少ないのではないだろうか。どこでどのように物質が使われているのかを知ることによって、より身近に化学物質の存在とその危険性を感じることができるはずだ。そこで、今回は代表的な環境ホルモン物質であるPCBとビスフェノールについて説明する。 ■PCBPCBはポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyl)の略である。その化学構造は図1である。PCBは酸素Oを含まず2つのベンゼン環が直接結合している。PCBは石油またはコールタールからベンゼンを分離、これを基にビフェニルをつくり、さらに塩素を加えて加熱し、鉄を触媒として塩素を結合したものである。 ![]() 図1:PCB(2〜6,2'〜6'の位置に塩素Clが合計1〜10個つく) PCBは1881年にドイツの化学者が合成に成功した。世界で初めて工業生産されたのは1929年である。それ以来、電気絶縁体、熱媒体、塗料、溶媒、潤滑油などとして幅広く使用されてきた。日本では、カネミ油症による中毒事件を契機として1972年にPCBの生産は中止され、1974年に輸入も禁止された。PCBは分解されにくく環境中に蓄積する。 ■PCBの毒性アメリカの五大湖はPCBに汚染され、オンタリオ湖の魚を食べていた妊婦の新生児には、「自律運動」「反射」に関して異常が認められている。また、PCBは甲状腺ホルモンの作用を抑える働きがあり、免疫力が落ちて病気になりやすくなるという報告もある。世界各地でイルカの海岸への集団上陸やアザラシの大量死が問題になっているが、これもPCB汚染による免疫力低下が原因と指摘されている。 サルやその他の動物を用いた実験では、受胎率の減少が引き起こされた。PCBの混入した餌をニワトリが食べ続けると、親には変化はないが、孵化率が減少したり、くちばしの奇形が発生したりしている。 PCBはその高い工業的価値により過去に大量に製造されている。PCBの混入したさまざまな製品はまだまだ私たちの身の回りに残っていて、生産が中止されても環境中の濃度低下は鈍い。 ■ビスフェノールAビスフェノールA(Bisphenol A)はプラスチックのポリカーボネート樹脂とエポキシ樹脂の合成原料である。ビスフェノールAの生産量の70%がポリカーボネート樹脂に、25%がエポキシ樹脂に用いられている。ボリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂は、食器、ほ乳ビン、食品缶詰の内部コーティングやびんの蓋、水道管の内張りなどに幅広く使用されている。これらを加熱した場合に容器などからビスフェノールAが溶出する。問題はビスフェノールAが動物や人の体内に入り込み、女性ホルモン(エストロゲン)様物質として作用し、生殖異常やガンなどを引き起こすのではないかと疑われている点である。 ![]() 図2:ビスフェノールA (2,2-ビス(4'ヒドロキシフェニル)プロパン/C15H16O2) ポリカーボネートから溶出したビスフェノールAが大きな問題となるきっかけは『奪われし未来』にとりあげられた細胞研究者によるポリカーボネート容器を用いた細胞培養であった。この実験ではポリカーボネート容器中で加熱処理した水を用いた方により多く女性ホルモンの一種が検出された。さらに、化学試薬として販売されているビスフェノールAを用いた実験ではビスフェノールAがエストロゲン様作用を示した。また、胎生期にビスフェノールAを暴露されて成長したオスのマウスは、前立腺の重量が増加することが知られている。 ビスフェノールAは虫歯の充填物の中にも使用されているように私たちの体に直接触れる部分に多く使用されている。厚生省は溶出するビスフェノールAは微量であり、プラスチック製容器などの使用でただちに健康に障害が出るとは考えられないという結論を出している。しかし、弱いながらもエストロゲン様作用をもつビスフェノールAが溶け出しているのは事実である。また、ビスフェノールAは母体内で分解されやすいことから、胎児への移行はないと考えられていたが、へその緒から検出されたという研究が発表され、大きな衝撃を与えた。現時点では胎児や乳児に対してどの程度の濃度でどのような影響をおよぼすのかはまったく明らかになっていない。より詳しい研究成果が待たれる。 ■厚生省方針 PCB処理に専用施設8月18日付け朝日新聞によれば、厚生省はPCB対策として専用処理施設の設置を促す方針を決めた。1952年から国内での生産が中止された1972年までに日本ではPCBが約6万トン生産された。そのうちメーカーにより回収されたのが約7千トン(酒井伸一『ゴミと化学物質』より)。残りは何らかの形で現在も処理されないまま残っている。厚生省は民間によるさまざまな処理システムから適正なものを選定、処理施設の建設や運営を支援する。支援経費は来年度予算の概算要求に盛り込む方針で、実現すれば5年で半分を処理できる見込みだという。 25年前に生産・販売・輸入が禁止された有害化学物質が今なお処理されずに全国に保管されているのである。また、保管物質の一部は環境中に流出しているとさえいわれる。法律によって、単に使用や製造を禁止するだけでは、有害化学物質汚染を解決したことにはならない。その後の処理に莫大な時間と費用がかかることを考えると、化学物質の使用は慎重に行うべきであることが良くわかる。 本記事は日本電気環境エンジニアリング株式会社 藤森敬三氏の監修によるものである。 (文責 エコロジーシンフォニー編集部:大谷)(エコロジーシンフォニー99年10月号) ■参考文献
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