2015年版ISO 9001への対応      作成:2016年5月27日

(内容は逐次加筆修正していきます。その都度ご覧ください)


1.移行期限とそれまでになすべきこと

 ISO 9001が2015年9月15日に改定され、ISO 9001:2015が発行されました。そのJIS版も2015年11月20日にJIS Q 9001:2015として出ています。

 これに伴い、旧規格(ISO 9001:2008)で認証されている品質マネジメントシステムも改定規格(ISO 9001:2015)に適合させるように見直し修正しなければなりません。その猶予期限は改定から3年以内、つまり2018年9月14日までであり、この日を過ぎると旧規格での認証は無効になります。

 この猶予期間中に見直し修正した品質マネジメントシステムで認証機関(審査機関)の審査(注)を受け、改定規格に適合していることを認めてもらい、認証(再認証)されないといけません。そのためにも審査(注)はできれば遅くとも2018年7月くらいには受けておく必要があります。
 というのも、審査(注)を受けたからといってすぐに認証(再認証)されるわけではなく、不適合などの指摘が出ればそれを是正し不適合が解消されていなければならず、また認証機関(審査機関)内での手続き・事務処理などにも多少の日にちがかかるからです。

 また、審査(注)を受けるためには品質マネジメントシステムの見直し修正だけではなく、その運用実績もつくらないといけません。旧規格(ISO 9001:2008)と改定規格(ISO 9001:2015)の違いは大きくはありませんが、その違い(差分)の運用実績づくりには注意がいります。
 そして見直し修正した品質マネジメントシステムに関する有効性評価、内部監査、MR(マネジメントレビュー)は欠かさず実施して審査(注)を受けることです。

:品質マネジメントシステムを見直し修正し、適用規格を改定規格に移すことを移行と呼んでおり、そのための審査を移行審査と称しています。

 この移行審査をどの機会に受けるかですが、ふつうはサーベイランス(維持)審査か再認証(更新)審査のタイミングに合わせて受審します。この場合の審査工数は、従来のサーベイランス(維持)審査または再認証(更新)審査より若干増える程度で、認証機関(審査機関)にもよりますが、審査費用はほとんど従来とは変わらないか多少の増加の程度で済むはずです。

 サーベイランス(維持)審査または再認証(更新)審査と切り離して単独で移行審査を受ける方法もあります。この場合の審査工数と審査費用は認証機関(審査機関)にお尋ねください。

2.改定に向けた具体的な対応

 では、移行審査に向けた準備はどのようにすべきでしょうか。

(1)品質マニュアルはどうするか

 改定規格では品質マニュアルは要求されなくなりました。なので理屈の上では品質マニュアルはなくても移行審査は受審可能です。言い換えると、従来のままの品質マニュアルでもダメだということにはなりません(それが適切かどうかは別にして)。

 もちろん改定規格の内容を睨み合わせて品質マニュアルを見直し改訂するのはよいことです。その場合、規格の章立てに合わせて造り直す必要はなく、いわゆる逐条的な品質マニュアルにすることはありません。

 改定規格では「事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合(integration)を確実にする」ことが求められています。品質マネジメントシステムで定めた決め事は事業実態に合い、事業プロセスの中に組み込んで一体不可分なものにしなければならないわけです。
 ここで言う統合(integration)とは、合体させてお互いになくてはならないようにする(両者が揃って完全なものにする)という意味です。従来は、ややもすれば品質マニュアルは事業実態とかけ離れた(形だけの)ものになっていたケースがありますが、もはやそれは許されないのです。
 そのためにも品質マニュアルは(用意するとすれば)逐条的なものにはせず、実際の事業プロセスに合った造りにするのが好ましいわけです。使用する言葉も同様で、規格で使われている用語ではなく、組織内で通用している言葉で表現することです。

 品質マニュアルがないと、見直し修正された品質マネジメントシステムで関係者全員が足並みそろえて運用するのが難しいかも知れません。なので、せめて品質マネジメントシステム体系図を用意し、そこに必要な文書(手順書・規定・基準・帳票など)と作成すべき記録を載せておくことがお勧めです。従来から品質マニュアルが活用できていた場合には、見直し改訂された品質マニュアルを継続し維持するのがいいかも知れません。

 今回の規格改定は、品質マニュアルを含めた品質マネジメントシステムをよりよいもの(事業実態にピッタリと合い、運用すれば結果が出せるもの)に見直す絶好の機会でもあります。改定規格はISO 14001:2015(JIS Q 14001:2015)との相性もとてもよくなっています。これを機に環境マネジメントシステムも含めた統合マネジメントシステムを(再)構築するのもお勧めです。

(2)管理責任者は必要なのか

 改定規格では管理責任者を設けることすら要求されなくなりました。なので、管理責任者が割り当てられていなくても移行審査は受審可能です。

 もっとも、従来のように管理責任者がすべき事項(下記のとおり)は依然として要求事項にあり、役割分担してでもいいから誰かが責任を以てこれらをやるように決めておかねばなりません。

  • 品質マネジメントシステムを改定規格の要求事項に適合させる
  • プロセスが意図したアウトプットを生み出す
  • 品質マネジメントシステムのパフォーマンスと改善の機会を経営者に報告する
  • 組織全体にわたって顧客重視を促進させる
  • 品質マネジメントシステムを変更するときは計画し完全な状態を維持する
  •  移行審査でこのあたりを問われたときに、お互いに顔を見合わせ責任を押し付け合う事態にならないように、責任・権限は明確に定めておくことです。

    (3)予防処置はなくなったのか

     改定規格では予防処置に関する要求事項はありません。

     本来の予防処置は(旧規格の場合もそうですが)システムの改善に関するものであって、目先の個別案件に潜在する不適合・不具合・トラブルを未然に防止するものではありませんでした。その点でかなり誤解があった、歪んだ運用をされてきたとも言えます。

     改定規格では、意図した結果(品質目標の達成を含む)に影響を与える要因(リスク)を管理しながら、結果が出せるマネジメントシステムを運用していくことが求められており、このマネジメントシステムの効果的な運用に努めること自体がシステムの改善、すなわち予防処置になるわけです。

    (4)新規の要素はなにか

     改定規格は旧規格と実質的には大きな違いはありませんが、それでも注意しないといけない要素は幾つかあります。順を追って説明します。

    (1) 内外の経営課題の把握

     組織の目的と戦略的な方向性に関連し、品質マネジメントシステムの「意図した結果」を達成するのに影響する外部の課題と内部の課題を明確にすることがまず要求されています。これは文書にしたり記録に残すことまでは求められていませんが、内外の経営課題に関係するいろいろな情報にはアンテナを張り、よく見ておかないといけません。

     このことは改定規格で言われるまでもなく経営者であれば当然できているはずで、結果を出すべき経営に頭を悩ませる経営者の心配事・懸念事項・経営課題を挙げればよいわけです。中期事業計画書に書くべき内容とだぶらせて考えるのがよいかも知れません。

     外部の課題には、たとえば市場の拡大・縮小、新興国の台頭、EPA・FTA・TPPの動向、景気・経済・消費税率の動向、賃金の動向、高年齢者の雇用、女性の活用、貧富の格差、移民・難民、労働形態の多様化、為替レートの変動、公共施設の統廃合、価値観の変化、客層・少子高齢化・ニーズの変化、市場占有率の見通し、原材料・資材の価格高下、調達先の確保、株価・資金繰りの見通し、M&A、立地・周辺状況の変化、市町村の合併、行政の予算措置の変化、新技術・設備の動向、各種規制・法律の変更、電力等のエネルギー問題、求人倍率、人材のグローバル化、強豪競争相手の登場・撤退、同業他社の動向、流通のモーダルシフト、サプライチェーンの変化、関係会社の海外移転、情報化社会のさらなる進歩、サイバーテロ・紛争、災害・事故…などがあります(これらは説明の都合で挙げた単なる例です)。

     内部の課題では、組織の価値観・文化の変容、従業員の高齢化、ベテランの退職、従業員の勤労意欲減退、管理職の指導力・管理能力の不足、人材不足・人手不足、従業員・次世代経営者の育成、女性の登用、財務体質の低下、固有技術不足、知識・情報不足、現場力の不足、従業員の資質・問題意識・力量・資格取得の状況、原材料・資材の供給不足、重大ヒューマンエラー、機密・ノウハウの流出、重大クレーム・品質異常、コンプライアンス・法令違反、不正・粉飾・偽装、不祥事、社内紛争、ストライキ・サボタージュ、親会社・顧客の離反、事故・火災・労災、電子情報化の遅れ、社内制度の硬直化、ダイバーシティの促進、多様な働き方への対応、顧客・取引先の減少、協力会社の対応能力不足、サプライチェーンの変化、市場占有率の変化、競争力・生産性の浮き沈み、インフラ設備の老朽化、生産能力・工程能力の改善、QCDの強化、部門間コミュニケーション向上、営業基盤の強化、機動的人材配置…などがあります(これらも単なる例です)。

     何が課題として適切であるかは経営マターであり、第三者(審査員など)が口を挟むものではなく、経営者が判断して決めればいいことです。ですが、ノラリクラリと曖昧な話に終始したり、聞くたびにコロコロと変わったり、経営層の間であまりにもちぐはぐなのはよくありません。規格ではこれを明確にせよ(determine、確定せよ)と要求していますので。

    (2)利害関係者のニーズ・期待の把握

     組織の利害関係者は誰で、そこが抱いているニーズや期待は何であるかを明確にする(determine)ことも要求されています。これも文書や記録にすることまでは求められていませんが、関心を持って見ておかないといけません。

    (3)適用範囲の決定

     適用範囲の決め方は旧規格と大きくは変わりませんが、それにあたって上記の(1)と(2)および組織が提供する製品・サービスを考慮しなければなりません。この適用範囲は文書に記載し、いつでも提示できるようにしておく必要があります。また適用範囲に含まれる製品・サービスの種類も明記することが求められています。

     適用範囲が決まれば、その範囲内で改定規格の全要求事項を適用することになります。もし適用できない要求事項があればその要求事項は適用除外できますが、適用除外の正当性を示さなければなりません。旧規格の場合は、ややもすると設計・開発を適用除外しているケースがありましたが、改定規格では難しくなります(詳細は後記のとおりです)。安易な適用除外は慎まないといけません。

    (4)リスクと機会の特定

     (1)と(2)を考慮して、意図した結果を達成するのに影響を及ぼしかねないリスクと機会を特定しなければなりません。望ましい影響(結果を見込み以上の達成するもの)はさらに向上させ、望ましくない影響(結果の達成を阻害するもの)は防止・低減させ、以て改善を達成するのに取り上げるべきリスクと機会です。
     このリスクと機会は、文書にして記載しておくことまでは求められていません。

     ここで言うリスクとは不確かさの影響と定義されています。分かり易く言えば「どう転ぶかで結果が違ってくる」ものです。その転び方には、良い方向に転ぶ場合と、悪い方向に転ぶ場合があります(リスクはこの両方を指します)。
     たとえば「これから人手不足が激化する心配があり、その程度によっては売上目標の達成に影響がある」という場合、人手不足は経営課題であって、リスクではありません。人手不足の程度によって結果に影響があるのがリスクになるのです。

     機会(opportunity)は用語の定義にはなく、必要ならばOxfordの辞書による解釈をする決め事になっています。それによれば、機会とは何か(競争で優位になるもの・事業発展につながるもの・よりよい成果が出せるもの)を成すのに好い時期・場合・状況を指します。たとえば人手不足を契機に自動化・合理化の促進や事業の再構築(本来の意味のリストラ)に軸足を移せば、品質目標や事業目的を上回る成果を上げる機会にすることができるかも知れませんし、新しい事業展開が拓けるかも知れません。
     不良・ロスの低減、無駄の削減、生産性の向上、新たな仕組みや取組み、新製品の開発、新市場の開拓、新規顧客の確保、パートナーシップの構築、新しい技術の採用、その他組織自身のニーズや顧客のニーズに応えられるようにできるのが機会です。

     なお、ISO 14001:2015には「リスク及び機会」に少し別の定義も書かれており(こちらのほうが分かりやすい)、両規格ではリスク・機会についての受け止め方が微妙に違います。

    (5)リスクと機会への取組み計画

     次に、(4)で特定できたリスクと機会に向けてのアクション計画を立てます。そのアクションは品質マネジメントシステムに組み込んで一体のものとし、実施し、アクションの有効性を評価しないといけません。また、このアクションは製品・サービスに潜在する影響と見合うものでないといけません。

     このアクション計画は品質目標の達成計画のようなイメージのものでは必ずしもなく、品質マネジメントシステムに仕組みとして組み込むものです。

    (6)品質目標の策定

     ここからが実践論ですが、アクション計画が仕組みとして組み込まれた品質マネジメントシステムに対して品質方針に副った品質目標を策定し、文書に定め、維持します。このあたりの手順は旧規格の要求事項とほぼ同じですが、進捗状況をチェックし、結果の評価方法も決めておくことが求められています。

     これから以降の品質マネジメントシステムの運用は、おおむね従来どおりに実施できます。

    3.品質マネジメントシステムの運用

     改定規格では、上記のように品質マネジメントシステムを運用するにあたって準備・計画すべき事項が増えましたが、リスクと機会に取組みながら、品質方針に副った品質目標を設定し、結果が出せるように経営努力するのは経営者にとって当然のことでしょう。

    (1)結果とパフォーマンスにも注視すべき運用

     改定規格では、意図した結果を出せるようにマネジメントすること、パフォーマンス(測定可能な結果、言い換えると結果の出来ばえ)に関心をもつことが旧規格に増して求められています。

     リスクと機会への取組みには有効性の評価が求められています。有効性とは「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度」を指します。品質マネジメントシステムの運用においては、品質目標が結果としてどうなったかの評価だけではなく、リスクと機会への取組みが見込みどおりに出来たか(結果)も評価しなければなりません。品質マネジメントシステムのパフォーマンスについても有効性も含めた分析・評価が必要です(マネジメントレビューにも欠かせません)。

     形だけ品質マネジメントシステムができていればよい、というわけには行かないのです。

    (2)ヒューマンエラーの防止

     ひとつ面白いことに「製造及びサービス提供の管理」においては「ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する」ことも求められています。

     ヒューマンエラーは、機械とは違う生身の人間だからこそ犯す「意図しない結果を生じる人間の行為」であって、どんなに注意を払っても、規律を高めも、慎重に取組んでも、無くすことはできない過失(ミステイク・スリップ・ラプスなど)です。
     これをどう防止するかは悩ましい運用になります。

    (3)設計・開発の取扱い

     設計は行っていないことを説明理由にして、これまでは設計・開発を適用除外にしてきた組織が結構あります。しかし、それが妥当であるかはよく検討しなければなりません。

     改定規格には(旧規格でも)箇条2(第2章)の引用規格のところに「次に掲げる規格(ISO 9000のこと)は、この規格(ISO 9001のこと)に引用されることによって、この規格の規定の一部を構成する」と定められています。そしてその引用規格のISO 9000:2015(品質マネジメントシステム−基本及び用語)には設計・開発に関する用語の定義が書かれており、次のようになっています。

    設計・開発
    対象に対する要求事項を、その対象に対するより詳細な要求事項に変換する一連のプロセス
     この定義によれば、たとえば
    ・設計会社・施主・元請・親会社などから出された図面(対象に対する要求事項)では現場は動けないから、現場作業向きの詳細な施工図(その対象に対するより詳細な要求事項)に書き改める
    ・顧客・親会社から出された図面では製造できないから、製造現場用に加工図・部品展開図・組立図・配線図などを作る
    ・本部や上部組織から指示されたレシピでは厨房では調理しにくいから、そのレシピに細かい点を書き加える

     こうした活動は設計・開発の定義に当てはまりますから設計・開発がないとは言えず、適用除外できなくなります。

     この設計・開発の定義は、旧規格(ISO 9000:2005)の用語の定義定義と微妙に違ってはいますが、旧規格の定義によっても設計・開発を適用除外することには問題があったケースが多々あります。

     適用除外してもよい理由(口実)に「運用の計画及び管理」(旧規格では製品実現の計画)で品質計画(施工計画)を作る一環としてやっている(だから設計・開発にしなくてもよい)というのがあります。しかし運用の計画及び管理(製品実現の計画)をするのと要求事項を詳細にブレークダウンする(より詳細な要求事項に変換する。つまり設計・開発する)のとは違います。

     実際、たとえば施工図を作成しているプロセスをよく調べると、施工図に間違いがないかしっかりとチェックしています(もし間違いがあれば、組織の製品・サービスの適合と顧客満足の向上を確実にする組織の能力・責任に影響を及ぼします)。これは設計・開発で要求されている検証に当たることをやっているわけです。

     加えて旧規格では製品の設計・開発に限定されていましたが、改定規格ではその限定がありません。工程設計も対象になるという見方もあります。
     いずれにしても、ある対象の要求事項をより詳細な要求事項に変換するプロセスがあれば、それは設計・開発になります。これを適用対象外にすることによって管理の手から漏れ、何か問題が生じたときに「組織の製品・サービスの適合と顧客満足の向上を確実にする組織の能力・責任に影響を及ぼす」ようなことにでもなれば、適用対象外は妥当でないことになります。

     品質マネジメントシステムの主要な要素の欠陥・欠落は(重大な)不適合として審査で指摘される可能性もありますので、十分に注意することです。

    ●●● 改定規格の解説はISO 9001:2015(JIS Q 9001:2015)の解説も参照ください。 ●●●


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