次世代のMSS(マネジメントシステム規格)      作成:2012年1月1日

1.ISO GUIDE 83 は画期的な変革児になるか

 1987年にISO 9001規格が登場して以来、1996年にISO 14001規格、2005年にはISO 27001規格が発行されるなど、次々と新しいMSS(マネジメントシステム規格)が出てきて多様化しています。それらは何らかの形でISO 9001を参考にしているように思え、例えばISO 9001とISO 14001は規格改定のたびに共通する規定文(要求事項の記述)にはお互いに整合を図るような努力がなされてきました。
 しかしながら、これらのMSSに共通する規定文が完全に一致した状態にあるわけではなく、それゆえにある意味でMSSの利用者を混乱させ、不便な思いを強いられてきたのではないかと思われます。例えば、ISO 9001では品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善するように要求していますが、ISO 14001では環境マネジメントシステムの単なる継続的な改善を求めています。両者の改善の狙いは微妙に食い違っているわけです。

 そういう反省もあってか、ISO/TMB(技術管理評議会)の下に設置されたJTCG(合同技術調整委員会)では多様化するMSSの構造を統一し、共通する規定文には共通テキスト(規定文)を定め、主要な用語には定義を決める作業がなされてきました。
 2011年2月にそのFDIS(国際規格の最終案)がISO GUIDE 83(High level structure and identical text for management system standards and common core management system terms and definitions−マネジメントシステム規格の上位構造と同一規定文およびマネジメントシステム共通の中核となる用語と定義)として出来上がり、2011年5月から9月にかけて関係各国のISOメンバーにレビューのための回付がなされて過半数の支持を得る結果となりました。まだ若干の修正が入るかも知れませんが、2012年2月のTMB会議でどの程度の強制力をもたせるか、どのような発行形態を取るか、などを含めて最終的に決まるものとみられます。

 誤解がないように説明を付け加えると、ISO GUIDE 83はMSSを利用する私たち規格利用者のために要求事項を定めた規格ではなく、規格開発者がMSSを開発(見直し・改定)する際のガイドになるものです。もし、ISO 9001もISO 14001も次の改定の際にこのガイドに沿うようにすれば、それらのMSSは共通部分はお互いに整合状態になり、幾つかのマネジメントシステムの統合がスムーズにできて合理化・簡素化に寄与することにもなりますし、新規のMSSの開発効率も向上するでしょう。

 すべてのMSSがこのガイドに沿えば、ある意味でMSSに画期的な変革をもたらすはずです。しかし、もし強制力が弱くて、例えばISO 9001がこのガイドに沿わず独自の道を歩むことになれば、規格利用者の期待に十分応えられなくなる心配があります。ですから私たちはISO GUIDE 83の成り行きを関心を持って見守っていくべきでしょう。
 なお、国際規格にはなっていないOHSAS 18001にどのような影響を及ぼすかについては、現時点では不明です。

2.ISO GUIDE 83 の概要と特徴

 それではこのISO GUIDE 83(ただし最終案)はどんな内容のものなのでしょうか。その構成は次のようになっています。

  •   序文
  • 1.適用範囲
  • 2.引用規格
  • 3.用語及び定義
  • 4.組織の状況
  • 5.リーダーシップ
  • 6.計画策定
  • 7.支援
  • 8.運用
  • 9.パフォーマンス評価
  • 10.改善
  •  これに次の用語及び定義が付いていて、面白いことにPDCAの順に掲げられています。
  • Pに関する用語
  • 組織
  • リスク
  • 方針
  • 目標
  • 最高経営層
  • 利害関係者(推奨する用語)、ステークホルダー(使用可の用語)
  • 要求事項
  • Dに関する用語
  • マネジメントシステム
  • プロセス
  • 力量
  • 文書化した情報
  • パフォーマンス
  • アウトソース
  • Cに関する用語
  • 監視
  • 測定
  • 監査
  • 有効性
  • 適合
  • 不適合
  • Aに関する用語
  • 修正
  • 是正処置
  • 継続的改善
  •  このガイドには規格開発者のためのANNEX(附属文書)も付いています。

     これまでのMSSと比べると、次の点が特徴的です。

     (1)リスクの取り扱いが関心の的に

     このガイドでMSSを構築し実施運用するにあたっては、組織を取り巻く内外の状況を把握し、意図する結果(とくに目標)を達成するのに影響する諸問題(リスク)をまず明らかにして(4章)、それに対応したマネジメント計画を策定する(6章)ように求められています。
     リスクと言えば、ISO 14001では環境側面、ISO 27001は脅威、ISO 22000ならハザード、OHSAS 18001には危険源が思い浮かびますが、このガイドに沿ったMSSができるとISO 9001でも品質リスクに十分に配慮しながら経営者の立てた目標を達成するマネジメントシステムにしなければなりません。

     注意がいるのはリスクの定義で、これはISO 31000(リスクマネジメントの国際規格)で取り扱う定義に沿います。それにもとづいて、このガイドの用語及び定義には、リスクは次のように書かれています。

    【リスク】
    目標における不確かさの影響

    注記1 影響とは、期待されていることから、好ましい方向及び/又は好ましくない方向に乖離することをいう。
    注記2 目標には異なる分野(財務、安全衛生、環境目標などのような)と異なるレベル(戦略、組織全体、プロジェクト、製品、プロセスなどのような)で設定されることがある。目標は例えば、意図した結果、目的、運用基準のようないろいろな方法でXXX目標として表現でき、同じような意味の他の言葉(例えば、狙い、ゴール、ターゲット)を使ってもよい。
    注記3 リスクは、起こり得る事象(ガイド73、3.5.1.3)、結果(ガイド73、3.6.1.3)又はこれらの組合せについて述べることによって、その特徴を記述することが多い。
    注記4 リスクは、ある事象(周辺状況の変化を含む)の結果とその発生の起こりやすさ(ガイド73、3.6.1.1)の組み合わせとして表現されることが多い。
    注記5 不確かさとは、事象、その結果又はその起こりやすさに関する、情報、理解又は知識が、たとえ部分的にでも欠落している状態をいう。
    注記6 XXXマネジメントシステム規格においては、XXX目標は組織によって設定され、XXX方針と整合し、特定の帰結を達成すべきものである。リスクという用語及びリスクマネジメントという用語構成を適用する場合は、マネジメントシステム規格共通テキストの6.2で指定されたXXX目標(これだけには限定しない)を含む組織の目標に関するものであるべきである。
    (XXXについては3.各分野のMSSへの対応を参照ください。)

     リスクには、ISO 14001の環境影響のようにマイナス(有害)のものとプラス(有益)のものがある、という認識をすべきことになります。これまでの古典的な意味合いだけでリスクを捉えてはいけないわけです。

     (2)文書と記録が渾然としている

     文書も記録も「文書化した情報」と表現され、渾然としてきました。分かりやすく利用しやすいMSS規格への改善に逆行しているような印象を持ちます。
     文書化した情報の管理は7.5節でまとめて規定されていますので、文書と記録をどう使い分けるかは、マネジメントシステムを構築し運用する際に工夫しないといけないでしょう。

     (3)予防処置が姿を消した

     表向きは予防処置に関する規定が見当たりません。このガイドによるMSSがリスクマネジメントのような規格になりそうなことを考えれば、予防処置は意味をなさないと考えるべきなのでしょうか。

     (4)目標達成志向が強い

    意図した結果が得られるような、とくに目標が確実に達成できるような、そういうスタンスの共通テキスト(規定文)になっています。

    3.各分野のMSSへの対応

     このISO GUIDE 83はISO 9001、ISO 14001、ISO 27001のような各分野のMSSの共通部分を扱っているだけですから、各分野のMSSに固有な要求事項は含まれていません。例えば、このガイドにはISO 9001にある設計・開発に関する規定文はありません。こうした各分野のMSSに固有な要求事項は、このガイドに沿って開発するMSSに付加することになっています。
     またこのガイドでは、マネジメントシステムや目標はXXXマネジメントシステム、XXX目標のように表現されており、各分野のMSSの規格開発者がXXXの部分を品質とか環境のように書き替えることになります。
     なお、序文から3.用語及び定義までは各分野のMSSの状況に合わせて書くことになっており、必要に応じて条項を付けること以外は決められていません(用語及び定義を別冊にしてもよいことは認められています)。

    4.いつ次世代のMSSが登場しそうか

     このISO GUIDE 83に沿って作られる第1号のMSSはISO 39001(道路交通安全マネジメントシステム)と見られています。そして2015年頃にはISO 9001とISO 14001が歩調を合わせて改定されて出てくるとも言われています。それが確かであるかどうかは、これからのISO GUIDE 83の成り行きに注視する必要があるでしょう。

    5.ISO GUIDE 83 の詳しい内容

     ISO GUIDE 83の詳しい内容(日本語)が必要な場合には、弊社にお問い合わせください。これまでに弊社とお取り引きのあった会社には、無料で情報を提供いたします。また取り引きのない会社には有料でセミナー(3時間)などを提供いたします。


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