サロンで議論(1999年10月号)


work と task

 今回の話題は少々つまらないものかも知れない。しかし「サロンで議論」をはじめた初回の書き出しに、酒の肴にするような話も出すと言ってあるから、たまにはいいじゃないかな。

訓練で済む作業と能力がいる作業
 実は ISO-MS 研究会でも出た話なのだが、work と task はどう違うのか、というのがある。そんなことはマネジメントシステム規格には関係ないじゃないか、と思う人がいるかも知れないが、そんなことはない。
 ISO14001規格の4.4.2「訓練、自覚及び能力」を見ると、最初の方に「環境に著しい影響を生じる可能性のある作業を行うすべての要員が…訓練…」とある。一方で最後の方には「著しい環境影響の原因となりうる作業を行う要員は…能力…」と書いてある。
 日本語に翻訳されたJISQ14001を読むと、前者も作業、後者も作業となっていて区別がつかず、前者も後者も同じようなことを要求していながらなぜ前者では訓練でよく、後者には能力まで求められているのか、釈然としない。両者はいったい何がどう違うのか、疑問が沸々と湧いてくるのである。
 この疑問は原文を読めば、氷解する…と言いたいところなのだが、英語のニュアンスがからんでくると日本人には、ちと分かりにくい。原文では、前者の作業は work になっており、後者は task になっているからだ。
 話を整理すると、環境に著しい影響を及ぼしうる(原因を内在する)作業に携わる従業員に対して、その作業が work なら訓練を、task なら能力を求めているわけだ。
 似たようなことは、現行のISO9001規格にもある。4.18「教育・訓練」で「特に定められた業務に従事する者については…資格認定…」と規定されている。ここでいう業務は原文では task となっており、ISO9001規格で task という用語が出てくるのは、後にも先にもここだけだ。他はすべて work という用語が使われている。
 さらに言えば、OHSAS18001規格でも4.4.2の「訓練、自覚及び能力」で要員に能力が求められているところだけが task となっていて、あとはすべて work だ。
 マネジメントシステムを構築された方や審査員の方々は、ここのところをどう読み分け、どのように使いこなしておられるのだろうか。

work と task の違い
 work と task の違いを確認するために、まずは辞書で調べてみた。
 ふつうの辞書では役に立たないので、The American Heritage Dictionary of the English Languageで見てみると、task やjob などは work considered as a specific individual undertaking(こういう人でなくては、という個人にやらせる仕事)と書いてあり、とくに task については:Task applies to a well-defined piece of work that is often imposed, of short duration, and burdensome.(はっきり定義されたひとまとまりの仕事で、やらされるものであり、短期間であり、ご苦労なものに使う)と説明されている。
 ちなみに task は tax(課税)を意味するラテン語の taxa や tasca から来ており、課されたものというニュアンスが色濃く残っている。
 一方、workやlabourとかtoilなどはthe exertion of physical or mental faculties in order to accomplish something, constracted with play or reaction(何かを成し遂げるために身体や精神を使うこと)であり、体を使ったり頭を使うことに意味合いがあるようだ。そのうち work については: Work is the most widely applicable.(広く使える)となっていて一般的である。
 また、Oxford Advanced Learner's Dictionary(略してOALD)の第5版には、次のような説明がある:
 work, labour, toil はともに不可算名詞で、身体的、精神的な活動という意味で仕事をすることを指している。work はもっとも一般的である。
 job と task は可算名詞で、個人が担う仕事の一部分をいう。task は通常は small job であり、面白くなく、やりたくないものを指す。また、Task can also mean something important that must be done in order to achieve something bigger in the future.(将来より大きなことを達成するために、やっておくべき重要なことをも意味する)。
 余談だが、OALD は版を重ねるごとに説明が詳しくなる一方、かなり書き替えられている。旧い版を見るほど説明が貧弱だ。
 参考までに、「いそいそフォーラム」に出てくる Mignon さん(ハンドル名)が体系化した work の用語分類に加筆修正を加えると次のようになった。
(罫線が凹凸になって見えるときはブラウザのフォントの大きさを調整してみてください。)

  work−+−work
     |(汎用的、一般的)
     +−labour
     |(肉体的労働、苦役)
     +−toil
     |(辛く厳しい、こつこつ労働)
(不可算 +−drudgery
 名詞) |(連続的、うんざり、賤しい)
====================
(可算  +−job
 名詞) |(全般的、長期従事、業務的)
     +−task
     |(課業、短期的、明確な内容)
     +−chore
     |(毎日の雑用、嫌でうんざり)
     +−stint
      (割当業務)

taskは担当業務
 次に、例によってBrian Rotheryさんに work と task はどう違うのか、教えてもらった。Brian Rotheryさんは DNV にも教材を提供したこともあるこの業界の有力者で、専門分野の生きた英語を知るには有り難い存在だ。
 電子メールでいただいた回答をかみ砕いて言えば、次のようなことであった。
 “例えばフォードの組立ラインで仕事をするのは work だよ。そこで車体の吹付塗装を担当しているというのなら、それが task なんだ。task は specific な(作業内容が明確に定められた)ものだ。塗装作業に関連してフィルター交換、換気扇の保守、塗料廃液の処理も担当していれば、それもtask になる。こうした task を担当する者は、competent(必要な資格がある、あるいはちゃんと出来る能力がある)でなければね。”
 結局のところ、work は業務(作業)全般を意味するのに対して、task は work の一要素ではあるがそれをこなす能力のある人に担当させ、ご苦労かも知れないが責任をもってきっちりとやってもらうべき明確に定義された仕事、ということになりそうだ。
 そういう意味で、翻訳の際には違いが際立つように、task は担当業務(作業)とでも言い切ってもらえばよかったのではないか。
 そんな理解にたてば、環境に著しい影響を及ぼしそうな仕事に携わる者には訓練を施し、とりわけ担当業務の従事者にはそれなりの能力も必要だ、となり、素直に受け入れられる。品質の場合も、特定の担当業務に従事する者に対しては必要なら資格認定を、というのも当然のことだろう。

 というわけで、なんのことはない、今回は当たり前の話になってしまった。


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