サロンで議論(2009年5月号)


利用者不在の制度運用

 当事者ではない受審組織の者が審査の場面に同席すると、審査員と受審者のやりとりを冷静に見聞きでき、状況の判断をすることができる。なので、審査員が何をどう確かめようとしているのか、手に取るように分かる。
 だが、当事者は問われたら不安な事柄に頭が一杯で審査員の関心事と擦れ違っており、トンチンカンな返答をしやすい。

岡目八目
 実際、審査の様子を第三者的に横で観察していると、状況がよく分かる。
 とくに当事者ではない受審組織の関係者が審査の様子を観察していると、自社の事情をよく知っているだけに、審査員の問いに何をどう答えるべきか、返答すべきことが客観的に把握できる。更に先の質問まで読めることさえある。
 しかし審査の矢面に立たされている当事者は、そうはいかない。頭の中を嵐が渦巻いていて、うまく答えられないことが多い。とりわけ審査慣れしていない人は、審査員に面しただけで頭の中が真っ白になって知恵が働かなくなり、声が出なくなったり、震えたり、冷や汗がタラタラ流れ出ることさえある。
 心配事が常に脳裏を横切り、審査員の質問を変な風に受け止めやすいのだ。でも傍で見ている人は、審査員が何を聞きたいのかよく理解できる。つまり渦の外にいる第三者は岡目八目で、状況を冷静かつ客観的に見られるわけだ。
 だから受審者がトンチンカンな返答をしたり、答えに窮していると、見るに見かねて横から助け舟の口を出しやすい。審査員が「この方(受審者)にお尋ねしているのですけれど」と、遠まわしに第三者(当事者ではない同席者)の発言を控えるようにお願いしても、またどこかでついつい口を出してしまう。
 求める方向に答が出せるように、横から口を出して返答の軌道修正をさせることは悪いことではない。そのほうが審査もテキパキと進んで助かるのだが…。

受審組織はお客様?
 話は少し変わるが、ISOマネジメントシステム規格の認証審査は第三者適合性評価と言われている。
 受審組織を取り巻く顧客や利害関係者(広く言えば市場や社会)になり代わり、第三者的な立場で認証機関が受審組織の規格への適合性を評価するからだ。
 だが、受審組織(第一者)から審査手数料や審査報酬をいただくことによって、認証機関が審査事業をやっていけるものだから、それを持続させ発展させるためには営業活動に力を入れて受審組織を増やし、審査の仕事を次々と確保しなければならない。
 そうすると 認証機関の関心は受審組織に気に入られることばかりに向き、 本来は第三者機関であるはずが請け負い仕事(審査)をする第二者に際限なく近づいてくる。
 第一者と第二者は当事者であって、幾ら第三者的な立場で審査するとは言っても、生活(事業の存続)がかかっていてはつれない態度はとれない。
 いろいろな機会に認証機関の関係者のお話を聞くことがあるが、その中でお客様という言葉がよく出てくる。実はずっと以前から、話題提供者(つまり筆者)はそれぞれの認証機関がお客様という言葉を使ったときに、いったい誰を指しているのか、関心をもって聞いてきた。
 どうも話の筋からすると、認証機関が言うお客様とは、審査の仕事をくれる受審組織のことを指していることが多い。
 認証機関が受審組織のことを指してお客様と言えば、それは認証機関が第二者になることを言葉を変えて表明しているようなものではないか。受審組織をお客様と呼ぶ認証機関は、彼らの代弁者であるはずの市場や社会からどんな目で見られるか、考えたことがないのだろうか。
 第三者機関として客観的で公平な審査をすると表向きの看板には掲げながら、実際には受審組織に気に入られるような言動(受審組織はお客様)をしているかに見える認証機関に対しては、眉に唾をつけてその仕事ぶりを見守る必要があるように思える。
 もっと言えば、審査終了後に受審組織から審査に関する満足度調査のアンケートを取っている認証機関が結構ある。それはそれでいけないことはないが、一歩誤るとますます「受審組織はお客様」化してしまう心配がある。
 もし審査に関するアンケート調査するのなら、なぜ受審企業を取り巻く顧客や利害関係者に対してしないのか。審査結果を伝えて、それで納得し信頼してもらえる審査(認証登録)になっているのどうか、彼らに確かめるのが本来すべき調査ではないのか。

第三者不在の制度運用
 マネジメントシステムの審査登録制度(認証制度)は、その運用面において第一者(受審組織)と第二者(認証機関)ばかりにスポットライトが当たりがちだ(ある意味では仕方がないことかも知れないが)。そこでは第三者(受審組織を取り巻く顧客や利害関係者)の影がすこぶる薄い。
 昨年7月に経済産業省から出された「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」にも書かれているが、この制度は社会的評価が高まっていないだけではなく、認証取得組織の不祥事が次々と出て認証に対する信頼性はますます下がる一方だ。
 いったい認証を利用するのは誰なのか真のお客様を忘れて、第一者と第二者が内輪だけで制度を回しているように思えてならない。第三者不在の制度運用になっているのではないか。
 いちおう認証機関の中には第三者を代表する判定委員会や公平性評価組織があるとしても、その蚊帳の外にいる一般の第三者には、何をどう評価しているのか、どれだけ機能しているのか、さっぱり見えない。
 このままでは、有効性審査に力を入れるとしても認証制度の奥底に潜む問題を抜本的に解決することにはならないように思える。最初に岡目八目の話をしたが、第一者と第二者の関係を本来の第三者が感じ取って、おかしなことになっているところには注意なり警告を発することが必要ではないか。いまはフィードバックの効き方がおかしなシステムみたいで、内輪だけの制度運用では健全な発展はないように思う。
 ISO業界関係者が一致協力して、影の薄い第三者(広く言えば市場・社会)をもっと中に引っ張り込んで、第三者が関心を寄せる中で受審組織と認証機関がいるようにしなければならないのではないか。第三者にその価値を認めてもらい、利用してもらわなければ、この制度の将来は明るくないだろう。そのためには情報公開ももっと進める必要がある。
 ただ、いまではマネジメントシステムは組織経営に役立つ道具として、組織の改善と発展のために活用する考えもある。それならばコンサルティングができない中途半端な審査よりも、組織の中まで深く入り込んだコンサルティングを受け、経営問題の解決策まで指南してもらったほうが、よほどすっきりするように思うのだが。


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